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2008年3月 9日 (日)

空中給油機

セビリアのホテルでテレビをつけてもスペイン語の放送ばかりで英語の放送はこれしかないCNNを流していたら、テロップで米空軍の空中給油機はノースロップ=EADS連合の押すエアバス機がボーイングを破って受Kc45a 注、とでてくる、もしかしたらこうなるか、とは思っていたが少しばかり驚いてしまった。これは事件だ。
確かに数週間前の報道では(全体の100B$ともいわれる機種更新の一部となる)今回のメーカー選定は次回に引き継がれるわけではない、という変な予告がペンタゴンからされていて、この発表の布石だったのか、となんとなく合点してしまう。

そもそも今回の選定は前回の選定が汚職スキャンダルで取り消しになったのを受けて行われたものだ、これにはマケイン候補が深く関わっていた。いまや共和党の大統領候補トップに立つマケイン上院議員は、4年前一旦はボーイングに決まっていた空中給油機の選定を選定のプロセスがおかしいと議会で厳しく指摘した、結局これが米空軍とボーイングの癒着・汚職スキャンダルの露呈に至りボーイングのCEOが退陣するやら経営陣と空軍に逮捕者がでるやらの大騒ぎで選定がやり直しになっての今回の決定だからボーイングが負けても流れとしてはおかしくもない。
しかし、保護主義的な政策を採る民主党はすばやく今回の決定に疑問を表明、オバマ、ヒラリーの両候補とも、米国内の雇用を奪う欧州製の機体を選択するとはブッシュ政権の政策ミスだ、とコメントを発表、民主党の牛耳る議会の委員会もマケイン候補の選定への介入を攻撃する姿勢をみせている。最近の航空機を巡る話題では一級のおもしろさだ。
一国の空軍力の要ともいえる空中給油機に自国製を使うという選択を止める、というのは確かに自由貿易のお手本のようにも見える、このような選択をとりうるアメリカには、凋落しているという指摘を覆しうる強さをみたような気もする。大局的にみれば共和党の自由貿易主義が正しいのはいうまでもないことだが、それにしても面白い。

4年前の事件そのものが空軍の女性担当官とボーイングの役員との間のやりとりに役員の娘のメールアドレスまで使われたりしてスパイ小説的なところがあったりで面白いのだが、今回は大統領選という大仕掛けがからんできて面白さが倍増している、マケインはボーイングと空軍の癒着の指摘で多額の税金の無駄使いを防げたとの功績を選挙中にアピールしていて、シアトルへの選挙遊説ではエアバスA320でボーイングフィールドに乗り込んだりもした、少々やりすぎて767空中給油機の製造ラインのあるカンサス州ではついにマケインは勝てなかったりもしている。真面目な見方でも、ボーイング対エアバスの戦いの一局面としても、また、米国内の航空機メーカ勢力図の変動としても、又、日本の自衛隊の装備が世界的な軍事装備に影響を与えている点でも興味深い。
ボーイングの候補機だった767空中給油機は航空自衛隊が既に選定発注していたが技術的な問題で納入が遅れに遅れてやっと先月日本に到着した、この間かなりの額の納入遅延金を納め続けていたといわれこの件も少しは今回の選定に影響しているらしい(少なくともノースロップ=EADSはこの点を攻撃していた)。また、そもそもこの選定争いの背景にエアバス対ボーイングの旅客機を巡る世界的な戦いがある,このところボーイングは新鋭機787(767の後継機にあたる)の開発トラブルで苦しんでいるがエアバスはA380の開発トラブルの危機を脱しつつありボーイングが元気を失うサイクルに入っているようなタイミングでの一撃であるとか、一方のノースロップは有人航空機ビジネスはB-2爆撃機以来久し振りの登場で景気後退でも影響を受けにくい競争激化の軍需産業の生き残りの戦いの中での画期的受注であることとか、とにかく登場する話題が豊富で深く面白さは近来まれに見る事件ともいえるように感じる。加えてWTOの場で米国政府と欧州委員会はエアバス・ボーイングの旅客機開発にそれぞれ相手方政府が不当な政府補助金を出していることがルール違反だとして双方に提訴、WTO史上最大の争いを繰り広げているさなかでもある、その一方の当事者の米国政府の選択がエアバスというのがすこぶる面白い。
海の向こうの事件とはいえ世界的な広がりをみせていて、大統領選の進展に従って今後また波乱もありそうで今年一杯は楽しめそうだ。たかが兵器の機種選定だが、ブロック化しつつある世界の動きの中で自由な貿易の主張がどこまで頑張れるか、そこらあたりが本当の見どころのような気がして目が離せない。

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