旅客機市場が異様で
本当にスパイラルの金融不況にはまってきたが、世界の航空機業界はどちらかというとのんきな気分が漂っている。民間旅客機はどこも背負いきれないくらいのバックログで数 年受注がなくても普通にやっていける、軍用機も米国を中心にコンスタントに大型プログラムが動いていく。こんな調子だから、組合も会社側に無理を言えると思ったのか米国でストライキが目に付く。最大のものは9月6日に突入したボーイングの機械工のストだ。ぴったり出荷がとまっているが組合・会社側いまだに歩み寄る気配がない。もう1ヶ月以上になる。日本で1ヶ月もストを打つなんてちょっと聞いたことがないが米国では時々ある話だ。日本の組合は経営と一体になってしまってストを打って賃上げ要求を通すなぞは考慮外になっているように見える。ボーイングでは9月のはじめにスト突入したが、世の中の経済状況全体がそれからキリモミ状態で、悪いときには悪いことが重なるという典型のようなストになっている。それでも引かない。787の初飛行も年内は怪しくて全体が2年遅れになりつつある。本当に悪いことが折り重なっている。それでも、である。
エアライン、特に米国国内線の方は燃料高と景気後退が重なって身動きが取れなくて、赤字の地方路線を次々に切り落としたり、古い機体は使うのを止めて便数を減らしてなるべく満席にしたり、格安チケットの設定を少なくして事実上の値上げをしたり、手荷物から料金を取ったり、更にはデルタとノースのように合併して規模拡大して生き残ろうともしている、死に物狂いだ。大手エアラインはローコストエアラインとの熾烈な価格競争で疲弊したところへこれだ、悪いことは重なる。
エアラインの方がボーイングなぞの航空機メーカーより何倍も苦しい。しかし巨大な旅客機市場がボーイングとエアバスだけに寡占され年々バックログが積み上がっていくさまはどうみても異様だ。今は両社で年1000機を出荷、受注はこのところ毎年2000機レベルで景気減速の影響が出てきた今年でも1600機くらいいきそうだ。今やバックログは7000機に及びそれが毎年拡大している、1機最低でも50億円はする、35兆円の受注残ということになる。市場の要請に2社では不足なことは明らかだ。しかし、この途方もなくリスキーなビジネスに乗り出す能力・体力のある第3の作り手はなかなか出現しない。航空機ビジネスへの参入の障壁の高さはかなりのものがあって、最も小さなビジネスジェット機でも開発・販売ビジネスをベンチャーで立ち上げた創業者はビジネスが利益を生み出すまでの長い間資金を調達しつづけることに持ちこたえられなくて、つぶれるか事業を格安で譲渡する羽目になるのが現実だ。100席以上のまともなサイズの旅客機では少なくも5000億円近くの資金を準備しなくてはならない、しかも10年くらいもの間巨額の資金が流れ出るばかりでいつ回収できるかも定かでない、市場の要請する技術レベルは高くなっており開発が技術的に失敗することもありうる、こんなビジネスはまともな感覚ではとても立ち上げられない、政府の手厚い援助も今はWTOのルールで制限されている。結局、参入するには資金障壁のやや低い100席以下の小型の機体から徐々に規模を拡大していくくらいしかありえない、しかしここは市場規模が限られていて現在のエムブラエル、ボンバルディア2社の寡占で需要はおおよそまかないきれている、別の厳しさが待ち受けている。この数年の間にロシア、中国、日本がここから参入始めようとそれぞれプロジェクトを立ち上げているが全部が生き残れるとはとても思えない。こんな息の詰まるような状況はいつまで続くのだろうか。いつかは見えざる手が働いて需要を満たせうるようにになるのだろうか、とても見通せない。
寡占化された市場のおかげでこの未曾有の恐慌のような事態でも航空機業界はなんとか乗り切っていけるだろう、自由化ばかりが善なわけでもなさそうだ。ボーイングのストも来月には終わるだろう、そうすれば米国の製造高もアップして見た目景気が良くなってくるかもしれない。
予定されたようにダウ株価は10000ドルを割り6年くらいの周期で景気の山谷が繰り返されようとしている。こんな騒ぎでは個人ではどうということもできない、心配するだけむなしくなる、のんびり秋のもみじでも楽しんで次の山を待つことにしよう。
| 固定リンク
コメント