キリストの墓の話が
八戸の近くにキリストの墓がある、とどこかで見たことがあって、最近寺山修二の花嫁化鳥と題された文庫本を読み流していたら、その話に行き当たった。茨城県の 神主家で発見された古文書--竹内文書--がキリスト伝説を伝えているというのが話の源のようだ。キリストは八戸に2回訪れていた、1回目は20才台で来日・修行して戻り、2回目が磔で身代わりに弟が殺されてパレスチナを脱出し八戸に上陸、日本で十来太郎大天空と名乗り嫁までももらってこの地で没した、という話だ。かなり荒唐無稽な話だが、寺山修二はまじめに色々調べて考えてみたあげく、結局、漢字も伝わってもない時代に十来太郎という漢字の日本名までつけられていたことになっている、これは無理な話だ、としている。しかしこの話に真実があるとすればこの土地の人がすべからくこの話を信じたがっているというところにある、とも記している。何か余韻がある。
こういう口伝を書き記した文書にはその元の話があり、時代を経て幾重にも様変わりしてきたのだろうから、真偽を問うこと自体無理なようだが、寺山修二のねちっこく事実を追うこだわりに彼の世界を見る思いがある。虚構とわかりながら寺山自身が信じたがっているのが漂ってくる。真実は虚構と対峙するものでもなんでもない並列なものなのだ、と語っているように感じられる。たぶんそうなんだろう。
この冬一番の寒気がシベリアから張り出してきて外は冬の嵐だ。純粋に物理学で支配される気象の中に、季節を、感情を、虚構を投影していく、それ全体が真実の世界のようで、面白くも感じられてくる。
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