ノースウエスト188便
最近の航空機を巡るトラブルでちょっとした話題を呼んでいるのが10月21日にノースウ エスト188便が起こしたミネアポリス空港通過事件だ。サンディエゴ発ミネアポリス行きのA320は離陸後巡航飛行に入ってまもなく管制や会社の再三の交信にも全く応答しなくなり、地上ではハイジャックかと戦闘機が待機した、着陸予定時刻の5分前になっても降下の気配が無いことから客室乗務員がインターコムで着陸予定時刻を催促してやっとパイロットはミネアポリス上空を通過していたのに気がついた、という事態だ。飛行自体は150マイル程行き過ぎていたのを引き返して無事着陸したのだが、2人ともが居眠りをしていたのではないかと騒ぎになった。飛行中のパイロットが居眠りをすることは知られた事実で一時期NASAが真面目にその影響を調査した、その結果眠いのに無理して起きて操縦するより巡航中短い間居眠りをしたほうがむしろパイロットは判断が迅速にできるようになり安全、というものでNASA NAPともいわれた。米国ではパイロットの居眠りは禁じられているが米国以外では容認している国もある。しかしこれはあくまでも1人は起きているのが前提で2人とも寝てしまうのは論外だ。
ところが調べが進むとこの188便は居眠りではなく両操縦士がデルタとノースウエストの合併の結果生じている新しいフライトスケジュールについて私用ノートパソコンを見ながら白熱した議論を続けていて熱中のあまり管制の呼びかけにも全く応じなかった、ということが明らかになった。きついフライトでの過労のための居眠りであれば同情の余地もあるが、職務放棄では容赦ない、たちどころに両パイロットはクビとなり更に怒ったFAAはパイロット資格の剥奪までに及んだ。パイロットの質の低下が議会でも問題としてクローズアップされるに至っている。
背景には明らかに航空機操縦の自動化が高度になっているという事実がある。特にフライバイワイヤになって通常の飛行もやさしくなることでパイロットのスキル低下や緊張感の低下が当初から懸念されていた、やはり避けようが無いということのようだ。巡航に入るとパイロットは暇になる、退屈になる。
ハイジャックなどは滅多に無いおおらかな時代には巡航に入ると希望すれば飛行中に操縦席を見せてくれていた。随分以前、カナダで移動中に就航したばかりのA320に乗ることがありフライバイワイヤ、サイドスティックのコクピットを見たくなって、スチワーデスに頼んだら簡単にOKが出た。案内されてコクピットに行くと先客の子供が見てはしゃいでいる、おおらかなものだ。パイロットと話しているととっても操縦がやさしいといってそのうち自動操縦を切ってみようと言い出した、ほら切ってもこんなに安定している、とやりだす。巡航中は退屈なんで興味ある人とおしゃべりするのが楽しいという風情だった。いまやコクピットのドアは厳重にロックされて飛行中は客室乗務員も立ち入れない、密室となってその弊害が出てきたように見える。ハイジャック対策は万全でも操縦する人間の気持ちの部分にまで配慮が及んでいないと思える。
航空機事故の主要な原因はパイロットミスと古くからいわれ 技術はそれを無くすべく人の手による職人技的操縦をできるだけ機械へ置き換える方向に推し進められた、進みすぎたのだろうか、いやいやまだまだという気がする、今や機械を使っている人そのものの気持ちに細やかに及ぶ人間的な技術がことさら重要になってきているように思える、そこにはマン・マシン・インターフェイスという固い言葉を越えた、機械と人間との関係の新しい次元が開けているような予感がする。まだまだ道は続く。
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