ウイットカムが去った
先週メールボックスを朝開けると、Richard Whitcomb(88)が亡くなったという記事が入っていた、そういえばそんな歳かと思い返される。Whitcomb の名前は航空機設計にすこしでも関わった人なら知らない人はないだろう。NACA/NASAの高名な航空機空力研究者だ。Whitcomというとエリアルールという言葉が真っ先に浮かぶ、随分以前エリアルールの最初のNACAレポートを読んだことがあるが、論文を飾る遷音速の抵抗の式は本質ではなくて等価回転体の抵抗と航空機の遷音速造波抵抗が一致するということのみが主張の本質だと悟って随分根っこに迫る考え方の人だと感じいったことが思い起こされる。日本に来た時一度話を聞いたことがある、この時は飛行する高度の気圧の1/3の翼面荷重となるように航空機を設計すれば最良の効率が得られる、という話をするのだが何故そうなのかは一言も話さない、とても学者とは思えない、直感の人のイメージが濃い、あるいははったり好きといってもいい印象だった。エリアルールは航空機の設計には極めて強力で音の壁を破れなくて苦しんでいたYF102が直ぐにこの考え方をきいて胴体にバルジをつけて易々と超音速を実現した話は有名だ。スーパークリティカル翼と名づけて新しい衝撃波の発生を押さえ込む遷音速翼のコンセプトを特許として提示したことや、ウイングレットを言い出したこと、いずれもエポックメイキングで、その後に続くものはメーカーであれ研究者であれスーパークリティカル翼やウイングレットという名前を名乗るだけでWhitcombとは違うものであっても新しいコンセプトを主張できた。もうこんな人はNASAから出ないだろうと思ってしまう。はったりのようで実はそうではないところが何ともいえない。その後のNASAの航空分野ではったりの部分だけを真似してしまう雰囲気が時々出るのはちょっと危険なところがあるようにも感じる。
航空機の開発がひらめきに満ちていた時代が過ぎ去ろうとしていることを思わせる死だ。
時代はめぐる。
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