カナディアンロッキーのハイキング
デジタルな機器をいじっていると時々間違いが起こって大事なデータがスポッと消えてしまう場面に出くわす。4日ほど前、乗鞍岳に遊びに行ってGPSデータで軌跡をとろうとガーミンのtrackをみると99%fullになっている、ついこの間パソコンにおとしたはず、と、エイッとデータクリアして使っているうちに、もしやこの間のパソコンへのダウンロードは保存し損なっていたのではないかと気になってくる、次にパソコンを立ち上げた時にはトラック表示が出ていなかった気がする。カナディアンロッキーで記録したものを消してしまったかもしれない、帰って昨日パソコンを確かめてみると恐れていたとおりだ、保存されていない、何かの手順をミスしたようだ、ファイル復活ソフトもこんなのには使えない。あきらめるしかない、とはいえ抑えていても残念さが頭をもたげる。しかしどうせ殆どのデジタルデータは50年もたてば無に帰してしまうはずだ、今頭の中に記憶しているものが本来全てのはずなのだろう、再びカナディアンロッキーの旅のディテールを思い起こしていく。
カナディアンロッキーでは1日はハイキングを入れようと思っていた、やたら高度を登るコースがある中サンシャインメドウズのコースは2000m高度を高原歩きして野生にふれるようで好ましく思えた。バンフのすぐそばのスキー場の夏のビジネスだが(駐車場から出発地点までを専用バスで結んでいてこれで稼ぐ形)かなり良さそうだ、しかしどうもグリズリー熊の生息地域らしい、熊よけスプレーを調達しないと、と思うがうまく現地調達ができるかどうか解らない、迷ったあげくガイド付きツアーへの参加(一人35ドル)を申し込むことにした、他に参加希望者がなければ専属ガイドとなる。White Mountain Adventuresという、スキー場運営会社がやっている現地サービスで勿論英語だ。日本からネット予約して、どういうことになるだろうかと一抹の不安を抱きながら現地へ行く。
当日の天気は事前の予想通り 晴れで風も弱い好天となった、この旅の天気の推移は全体に直前の192時間全球予測計算結果とほぼ合っていた、スパコンの計算も満更でもない。専用バス発着所のロッジ受付に行くと 待ってました、とばかりのにこやかな態度で迎えてくれる、感じがいい、暫くして現れたガイドは歯切れのいい発音の長身のイギリスからの移住者で冬はスキーのインストラクターをしているという、ツアー参加者は他にはおらず期待通り専属のガイドの形となった。ちなみに熊よけスプレーはロッジの売店で売っていた、かなり近づいてから熊の顔に風上から吹きかける、というのが使い方だが、少々勇気が要る、最後の手段だ、勿論ガイドは常備していてトレーニングもしている、ともかく熊スプレーだけのお守りよりも、熊への対処に詳しいガイドのほうが何十倍も心強い。
冬はスキー場となる草原を横切ってRock Isle lake,Grizzly Lake, Larix Lakeと巡る、花がいいし、Colombia Ground Squirrelという地リスあちこちに現れては立ち上がって鳴いていたりする、これまでのロッキーの岩山とは違いフィールド全体が柔らかな
感じがしていい。ガイドの英語は解りやすくて、花の名前とそれにまつわる話や、4種類の木の話、あれがアシニボイン、むこうがモナコマウンテンといった山の名前、地リスの巣をグリズリーが襲って食べる話、餌が豊富なためこのあたりにグリズリーが多い話、氷河から流れ出る水は何故あんな青なのか、そのほか四方山話をしながら歩いていく、なかなか楽しい。花はアルペンアネモネや赤いインディアンペイントブラシが多くていかにもお花畑だ、忘れな草(forget-me-not)の青い花が心に残る、花は種類も多い。鳥は数種出るが姿がしかとは
見えず名前が判然としない、奥日光よりは鳥の声が聞こえない感じだ、野鳥を含めたフィールドの良さは日本はかなり素晴らしいものを持っている、と改めて思う。途中で日本に居たことがあるとの感じのいいカナダ人夫婦と行き会う、トロントから来たという、やはり日光は素晴らしいハイキングコースだった、と語っていた、そうなのだろう。
グリズリー熊には出会わなかったが、道の途中で地リスの巣を掘り返した真新しい痕跡に行き当たった、数日前まではこんな痕跡はなかったという、やはり熊が多いことに間違いはなさそうだ。
旅の最後の日にセットしたハイキングだった、予想以上のフィールドの素晴らしさと刺激がそこにはあった、心地よい疲れと緩やかな対話のもたらす充実感もいい。こんな風に続く旅はかけがえがない、こんな旅をまたできるだろうか。
翌日朝早くからカルガリー空港に向かって走り始める、空港近くにガススタンドはうまく見つかるだろうか、レンタカーを飛行機の出発時間に余裕を持って返せるだろうか、朝のラッシュは大丈夫だろうか、旅らしい不安を抱いてクルマを走らせる。不安とその見返りのような充実の繰り返し、これもそろそろ終わりだ、その先にはまた日常が待ち構えている、旅の終わりのこのないまぜとなった感触はなんともいえない。ともかく旅は止められない。
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