月山
月山に登った。登る前は月山はスキーツアーの山、夏スキーの山という印象が8割がたで、森敦の月山の世界は浮かんでくることもなかったが、月山に登り、羽黒山に行き湯殿山神社にいくと、これは恐ろしいばかりに宗教的な世界が広がっていることを感じずにはいられない、森敦の月山を読み返して見なければと思いはじめている。
月山へは最もアプローチの楽な姥沢のリフトを使って登ることにした。リフト乗り場までの山道では1台の車にも出会わない、こんな日に本当にリフトは動いているのだろうかと心配になる。宇都宮から丁度4時間で予定通り10時にリフト手前の駐車場に着くと数十台の車が停まっている、なんとなく安心する。しかしあたりには昼食のおにぎりを調達できる店などない、思い返すと寒河江SAが最後のお店だったのだ、有名な場所だからと気を抜いていたら買い損ねた、今日のお昼は手元にあるわずかばかりのパンとバナナ1本であきらめることにする。ともかくリフトは動いていた。真っ赤なナナカマドの実や時折姿を見せるブナが美しい、15分もかかるリフトにゆられて上がり暫く進むと分かれ道に出る。姥ヶ岳経由で稜線歩きのように進むルートと牛首から月山に直接向かう右ルートの分岐だ。少し迷っていると、ブローニサイズの立派なカメラで三脚を立てて月山を写していた男性が、右へ行けば20-30分は早い、しかし姥ヶ岳ルートは眺めがいい、と教えてくれる。まだ元気があったのもありエイッと姥ヶ岳ルートをとることにする。そうですか、私もそちらで行きますよ、とくだんのカメラ氏。ほかにも賑やかな笑い声を立てる3熟女もこちらを選らぶようだ。平日だが登山者は思ったより多い。とにかく登り始める。木が一本も無い。空には何本もの卷雲が流れる、気持ちの良い青空だ。クルマに乗りっぱなしで歩きたいという気持ちが走る。しかしボウルを伏せたような姥ヶ岳では そこが山頂と思って勇んで登るとその先に山頂のようなものがまたみえる、こんなことを繰り返す、そのうちリンドウがぱらぱらと目に付くようなってさすがにもうというところで山頂に着く。眺めがいい。柔らかい山腹が月山の山頂まで続く様が何にもさえぎられずに見える。思ったよりマッシブな山だ。これは結構時間がかかりそうだとの予感が走る。牛首へ直接向かう道もよく見える。分かれ道で牛首に向かった女性単独の人の姿も見える。この山は女性が多い。
一旦下って湯殿山からの道と合流する。若い人が7-8人湯殿山ルートで上がってきている、こちらはかなり長いルートだ、しかし芭蕉は奥の細道の旅では弥陀ヶ原から登って月山山頂
でビバークし湯殿山に下っている、正統的にはこちらなのだろう。
稜線沿いではハイマツ位の丈の低いカエデが紅葉している。真っ盛りではないが、なかなか綺麗だ。12時丁度に牛首につく。これくらいが普通のペースという感じだ。月山というとどこかに雪があるとも聞いていたがこの時期は全く雪がない、歩きやすくはある。ここからは月山頂上へ向けた登りとなる。登りにかかると後方から ほら貝の音が響く。修行僧が登っているのだろうか、いかにも修験の場らしい。程なく追いついてくる、普通の格好にほら貝を抱えている、聞けばやはり行で愛知から勤めの合間に来ているのだという。ともかく登る、登りはほぼ直登できつい。やっとの思いで13時に9合目と教えられた延命地蔵尊(鍛冶小屋跡)に着く。更にもう一
登りして頂上部にたどりつくとその先に小高い砦のような月山神社が見える、確かに普通の山頂ではない、人が積み上げた山頂のようにも見える、あそこが最高点だ。
ここが山頂という立て札も無ければ最高点の三角点も見つからない、聞けば三角点は神社の北側らしいが入れなくなっているし神社より低いようだ、後で国土地理院の地図で調べると三角点は1979.5mで最高点は1984mとなっている、やはり神社のほうが高い。不思議な山だ、聖域なのだろう。翌日雨の中 羽黒山神社と湯殿山神社を訪れる、宗教の強さが溢れんばかりだ、出羽三山は観光地という言葉とはかなり離れたところにあるようだ。湯殿山神社本宮は建物は一切無い、神社本来の姿をしている。即身仏という言葉もあり 神も仏も区別があいまいな世界が立ち込めている。
月山はただの百名山ではなかった。
また何も知らないことを思い知らされてしまったようだ、日本を知るだけでも最早時間が足りない。冬がまた近づいてくる。
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