ホタルと時代と
ほたるの季節になった。のんびりと怠惰な土曜日を過ごしていると、去年はほたるを見損なっていたように思い出されて久し振りにほたる観に出かけることにした。場所はいつもの美術館裏だ。薄暗くなって外に出ると風が少しばかり爽やかで、ほたるが出やすいといわれる梅雨のむっとするような生暖かさがない、これではあまり期待できないか、とも思うがこの先次第に気温は下がる予想でタイミングとしては今夜だ、とばかり出かける。長岡百穴の裏の道を使って目的地に向かうが、細い道にしては結構クルマとすれ違う、土曜出勤の帰宅時間という風情だ、ノンビリ過ごしている人ばかりではない。T字路を左へ折れて暫く進むと左手に見覚えのない建物群が暗がりに浮かび上がる、老人福祉施設のようだ、かなり大きい。ここ数年 類似の施設があちこちに作られて目に付き出している、このあたりなら確かに都市部に近い割に静かで自然が色濃くていい立地かもしれない、なにしろホタルが飛び交うくらいだ。団塊の世代が老人ホームに入り始めるのはまだ10数年先のことだろうが、こんなビジネスがこれから国内需要を下支えするようになっていくのだろうか、そんな時代が目の前だ。
すぐ先の美術館裏に来てみると、人が多い。駐車場所には1台だけだが、どこからか歩いてきているようだ、ちょっと騒がしい。小川沿いに少し下ってみてもホタルは1頭も出ない。この人だかりに恐れをなしたか、環境が変わったか、或いは気温・湿度(相当温位)のせいか、と考えながら少し戻って佇んでいると木陰に光るものが飛ぶ、いた。時間がどうやら早かったようだ。人が集まってくるので少し場所を変えてまたじっと眺めていると、茂みに光がみえる、こちらは弱々しくて休む時間も長い。暗闇が増してくるとともにひっそり飛び出して次第に数が増してくる、田んぼの上にも数頭飛ぶしゆっくり歩いていると寄ってくるのもいる、2年前より僅かばかり増えているような気がしてくる。それが伝わってこんなに人が集まってくるのだろうか。殆どが子供づれだしホタルを取ってせがむ子供もいる、親も言われるがままに取ろうとする、そのうちここのホタルもとられつくされるかもしれない。しかし、こんな光景を見ていると子供が減っているという気がしなくなる、やはり老人が増えて死んでいく人の数が急に増え始めて総人口が目立って減りだしたという理解が正しいように思える。気になって後で調べてみると確かにそうだ。
増えていく老人ホームとホタルとわがままな子供の増加、何か関係がありそうな気がしてくる、しかし随分長い糸だ、少々考えてもたぐりよせることができない。もどかしい思いがするがきっとこんな風景全体が本日現在の世界の真実の切り口なのだろう。渾然とした光景が時代そのものなのだろう。
帰り始めるクルマの前にまたホタルがスーと現れる。そろそろ夏だ。
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