アイガーを眺めながら歩く
スイスアルプスへの旅は心に残るものが沢山あって記憶がはらはらとこぼれていかないうちに書き留めておこうと記しているが、なかなか進まない。4日目だ、7月4日のことになる。
スイスも4日目となってようやく天気が良くなってきた。バルコニーからアイガーの朝焼けが美
しく見えて今日はハイキング日和となりそうだ。もうのんびりいくことにしたので今日はフィルストからバッハアルプゼーまでゆっくり行ってみて時間があればグリンデルワルドに戻ってバスのただ券を使ってグルンドに移動しメンリッヘン行きのゴンドラに乗ってみることにする。午後は崩れて雷雨になりそうだが乗り物に乗るところまでは何とかなるだろう。
フィルスト行きのゴンドラはスキー場によくある6人乗りのゴンドラだった、天気が良くてアイガーやシュレックホルンなどがよく見える。雪のあるシーズンにスキーに来たくなる、あたり一面スキー場だ。乗り合わせたちょっと感じのいい新婚さんと話していると2日前の雷雨の日にこのルートを歩いたが何も見えなかった今日は移動日だが天気がいいので時間をやりくりしてまた来てみたという。そうで
すよね、と相槌を打ってしまう。こんな日に歩かないということはない。30分ほどでフィルストに着く、展望台は帰りに昼食に寄ることにしてすぐに歩き始める。フィルスト展望台の直ぐ上の小高
い丘のようなところでアイガーやシュレックホルンとその周りの氷河、そしてその向こうのユングフラウ、といった素晴らしい展望をしばし眺めては写真を撮ったりのんびりする。もういいかと丘を下ってバッハアルプゼーへのコースに乗って、振り返ってみると丘と思っていたところはオーバーハングした大きな岩の頂だった、知らぬが仏でのんびりしていたが何かの拍子
で落ちれば命はない。確かにアルプスだ。
道はしっかりしているがせっかくGPSにポイントを入れてきたので地図と照合しながら現在位置を確かめつつ歩く。日本の山歩きと似たような感じだ。標高は2250mくらいだから美ケ原よりやや高い程度で、森林限界の大分上になる、やはり花は多い。鳥を探したり花を見たりしながらゆっくり歩くので、ツアーの集団が来ても直ぐやり過ごせてのんびり静かに楽しめる。青いフリューリングス・エンツィアンや黄色いトロ
リウス・エウロパエウス(タマキンバイ)がよく目に付く、昨日と花は同じようだが時折マーモットが現れたりして、また違った雰囲気だ。雪渓があったり北アルプスのような風情だが振り返ると見える山の連なりが違う、何しろ氷河(グリンデルワルド下氷河)が見える、景色に重みがある。小さな高山蝶も現れるが名前が解らない、花も旅行ガイドの写真が頼りだ。こちらに図鑑が売っているだろうと思っていたがグリンデルワルドの案内所にもベルンで入った書店でも野生植物や鳥の
図鑑が見当たらない。グリンデルワルドで遂に見つけた図鑑はスイスで印刷された日本語の花の図鑑だった、ギョッとするものがある、スイスの人は花の名前には興味がないのだろうか、それとも普通の人は当然知っているのだろうか。日本でもよく行き当たるが鳥がたくさんいる場所で地元の人が殆ど鳥に興味を示さないことが多い、あの類のことか、とも思ってしまう。グリンデルワルドの街でエーデルワイスをやたら売っている、ホテルはこれを玄関先に植えたりしている、栽培種のようだが、栽培されている野草は必死に生きているという可憐さが無くてちょっとつまらない。観光地なんだ。ビジネスが前面に出ているんだ。国立公園でないということはこういうことか。自分流に楽しむほかないようだ。
昼頃になるとアイガーの西側から雲がかかってきた。フィルストまで戻ってレストランのテラスで山を見ながらアイスティーでも飲んでのんびりする。少し疲れてぼんやりしている、なんともいえず心地よい。
グリンデルワルドに戻ってみると バスの時間が丁度いいのでグルントまで行ってメンリッヘン行きのゴンドラに乗ることにする、雨になりそうだが、上がって様子も見てみたい。天気のせいかゴンドラに乗客は殆どいない、動きはじめて暫くすると放牧されている牛の首につけた鐘のグアラングアランという大きな音がゴンドラまで響いてくる。牛自身はうるさくないのだろうか、不思
議だ。30分ほどで上につく、やはり雨だ。それほどの雨でもないのですぐそばに見えるメンリッヘンの山頂に向かうがそのうち雷の音もし始めて雨脚も増し、途中で止めて
しまう、こだわらないのがスイスにあっている気がする。それにしてもアイガー北壁がよく見える、雲が切れ切れにかかって却って凄みがある。ユングフラウは雲の中だが、メンヒは半分くらい見える、いかにもスイスの山らしい。ラウタブルンネンの谷は雲で埋まっていてアイガーの右からは厚みのある雲が押し寄せてくる、小屋のひさしで雨宿りしながら静かにしばし景色に見入る、贅沢なのだろう、何と言うこともなく時が過ぎていくこんな日も悪くない。
明日はツェルマットだ
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