屋久島の旅ーーーその3
屋久島の旅3日目。
縄文杉登山から帰った夜は宿の階段を上るのもつらいほどだったが翌日には大分回復して、予定の白谷雲水峡に行くことにした。宿を出た朝8時過ぎでは薬屋はまだ開いていなくてエアーサロンパスは入手できないがイオン飲料を大目に買い込んで向かう。周回道路から左に折れて走りやすい道で高度600mまであげ
る。駐車場には既に沢山のクルマが停まっている。歩道入口の沢の眺めが涼しげだ。今日も晴れている。屋久島の天気は大体がこんなものですよ、と宿で言われる、雨ばかりというのは中心部の山岳地帯のことのようだ。島の森に絡まる湿った空気が暖められれば相当温位の逆転が容易に起こって上昇気流が発達しやすく雨を降らすほどの雲にまでなることはいかにもありそうだ。森があるから雨が降る、雨が降る
から森が育つの循環が成り立っているのだろう。
この日のルートは苔の風景が主眼なので楠木歩道経由で苔むす谷に向けて歩けばいいかとの心積りだ。沢を上る道から程なく右岸の急な斜面を上がって楠木歩道に入る。この道は江戸時代に年貢米の代わりとなる木材を運ぶために作られた道そのものだという、普通の山道だ。木材の運搬は大変な仕事だったに違いない。しかしこのくらいの道で運べる程度に
しか伐採できず自然の姿が維持できたとも思える。屋久杉の伐採の多くは戦後の機械化された林業によっているようだ、人間の文明が進化すればそれだけ破壊的にもなる。あたりまえのことを改めて考えてしまう。
今日は短いコースだしどこでも引き返せるとゆっくり景色を見ながら歩く。水と木と苔と石の作る風景がなんとも言えなくてどこを切り出しても絵になる。特に苔がいい。ヤクシカもヤクザルも方々で姿を見せる。シカは苔も食べるようだ。餌は無尽蔵といってもいい。苔は杉苔が主のようで杉苔
の間から杉のような小さい葉が出ていたりする。縄文の昔がそのまま今に流れている時と重なってくるように思える、やさしい森だ、いい森だ。
沢が細くなって時々渡渉する、上流で急な雨が降れば渡渉も厄介になるかもしれない、そんなことも考えるがいまのところ島の中央部の雲は積乱雲にはなっていないようだ、まだ大丈夫そうだと緩やかなのぼりを歩いていく。それなりのリスクがあるコースだからだろうか、ここもガイド付きツアーが目立つ。昨日縄文杉を歩いていた人に何人も
出会うし山ガールも多い。昼前に白谷小屋に着く、ここは水場もあり丁度いいかと弁当をたべる。その先の苔むす森と名づけられたところまで行って引き返すことにする。1日中散策しても飽きないように思える。
ゆっくり山を降り空港近くの日帰り湯に入って4時前に屋久島空港を後にする。
屋久島は観光の島ではなかった、存在し続ける森らしい森全体をただただ感じるだけの島だった。どこを切り取っても素晴らしいし、どこを切り取っても同じといえば同じだ。もう十分と思
えばそれもよし、もっとと思えばまたくればいい、すこぶる個人的な思いの島だった。それがとりわけいいのだろう。
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