広島へのクルーズ
この3日ほど友人のクルーザーで福岡から広島まで海を旅していた。5ktくらいの速度だから一日100km走るのが精一杯だ。ヨットはまだまだ初心者故迷惑をかけないようにするくらい
であまり役には立てない。それでも見張りをしたり舵を時折代わったりはして、風景を見ながらゆっくりと動く。
海の様子が刻々変わっていく。玄界灘は台風27号の余波は収まってきたとはいえうねりが結構ある。陸に沿って走るが島と陸の間には岩礁がそこここにあってこれも気になる、のんびりした雰囲気はあまり無い。関門海峡に近づくと大型貨物船が目立つようになる、衝突が怖くて後ろから来る大型船に航路を譲りながら狭くなってくる水路を進む。日没をやや過
ぎたところで宿泊地門司港のポンツーン(浮桟橋)にやっと到着する。楽しむというより安堵感の方が大きい。
船泊した翌日は風も波も収まるはずだが上関室津までの長いコースだ。
夜明けとともに東向きの流れに乗って関門海峡を突破する。
瀬戸内海に入ると予想通り風はゆるい東風だが正面の風ではセールは利用できない、エンジンで進むだけだ。昔はどうやって瀬戸内海を航行したのだろうといぶかしく思われてくる。風待ちばかりでは船は役に立たない。戻ってインターネットで調べてみると潮流が日に何度も変わるのも利用して前
に進んだらしい。確かに関門海峡や大畠瀬戸では最大5ktくらいの流れが西向き,東向きと日に4回くらい向きを変える、流れを見定めておけば風の力を借りずとも結構前に進めるように思える。
関門海峡を押されるように過ぎて周防灘に入るがうねりが収まらない。風は収まっているし瀬戸内海は外洋のうねりが来にくいはずで少々変だ。聞くといつもこんな印象だという。うねりにしばらく悩まされた後 国東半島そばの姫島と防府近くの野島を結ぶラインを越えるといかにも瀬戸内らしい油をこぼし
たような穏やかな海になる。その落差がなんとも奇妙だ。関門海峡と野島―姫島ラインで囲まれた海域が閉じた海になっていて関門海峡から入ってくるうねりが反射しながらこの中で行ったりきたりしているように思える。野島―姫島から東側は四国の佐多岬を回って太平洋と安芸灘以東の瀬戸内とが連動しているようだ。衛星データでも野島―姫島の東と西では海面温度分布などでもはっきり差が出ていて異なる水域になっているように見える。内海は単純ではない。また一つ学ばされる思いだ。航行してみなくてはこんなことは実感できない。
それにしても日本では古くから、恐らく縄文の昔から大陸との往復は盛んだったように思える、しかし外洋の航行技術は蓄積されてきたはずなのに体系化して残されるということが無かったようだ。鎖国による渡航禁止と大型船の建造の禁止で日本は航海技術の伝承の多くを失ってしまったのだろうか、海に囲まれた国というのに
同じ環境の英国との違いはあまりにも際立っている。技術は政治で途絶えることがあるという歴史なのだろう。
見事な夕陽を背にやっとたどり着いた室津で一泊、翌日は米軍の立ち入り禁止水域が広がる岩国沖を過ぎ牡蠣いかだで埋められた宮島の海峡を進んでようやく広島に至る。
のんびりとかゆったりとかいう言葉がふさわしい旅ではない、興味深い旅としか表現しようが無い旅だ。
違った旅をすると違った時間を感じる。海をめぐる歴史と世界の多様さを考えさせられる。刺激的な旅だ。
広島から博多まで新幹線で1時間半で戻る、途中の小倉からはビジネス客がどっと乗ってくる。そこには別の時間がある。確かに我々は多層な空間に生きている、そんなことは当たり前なのだけれども、なんだか楽しい。
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