ツクシアケボノツツジを見る
庭の桜は半月も前にすっかり散ってツツジに取って代わられ もはや夏間近の雰囲気がし始めている。
ゴールデンウィーク間近といえば北関東に居れば中禅寺湖畔茶ノ木平付近のアカヤシオが気になってくる時分だ。
初めて栃木で山を染めるアカヤシオに遭遇した時は北関東の山の美しさに少々感動した、こんな風景はそれまで見たことがなかった。
関西に暫く居たこともあって関西の山を少々歩いていたが山で木の華やかさに出会ったことは無かった、北に行くに従って山は美しくなるのかとその時は純粋にそう思った。(1番目の写真は奥日光茶ノ木平のアカヤシオ、2010年撮影)。
昨年九州へ戻ってきて阿蘇でミヤマキリシマの美しさを知った。なんだ九州の山も十分美しいではないか知らなかっただけではないか、と思って他にも何か、と、ネットを彷徨っていたらア
ケボノツツジの存在に行き当たった。
写真で見る限りアカヤシオとまるで同じだ。1000m以上くらいの宮崎北部の山に咲くらしい,これは是非見にいかねばと思っていた。今年に入って4月も半ばを過ぎ春もたけなわでそろそろ時期かと具体的な場所を調べ始めてみるとアプローチが楽な宮崎北部の二上山や諸塚山ではもう見頃を迎えると知ってあわてて宿を予約して出かけた。2週
間前に訪れた高千穂峡の近くで九州の背骨に当たる山深い場所だ。 二上山取り付きの六峰街道入口に福岡市内から3時間ほどかかって到達する。二上山のアケボノツツジは見ごろを過ぎているらしいとネットにあったがまだ幾ばくかはあるだろうとの期待がある。
六峰街道という名前の林道を走り20分ばかり上ると二上山雄岳から雌岳に延びる稜線の峠に到着する、道は広くはないが舗装されていて離合も可能で普通の山道だ。ここからは観光協会に教わったとおり路肩に車を置いて稜線歩きということになる。
時折弱い雨の降りかかる平日だったが3台くらい先行者が駐車している、九州ではアケボノツツジが最も容易に見られる場所となっていて休日ならば混雑しそうだ。
歩き始めると直ぐにアケボノツツジの花が目に入る、見ごろといってもいいくらい良く咲いている。アカヤシオと比べて幾分赤味が多いような気もするがほとんど同じだ。標高990mの雌岳のピークまで稜線に沿って連なるように沢山咲いていてこれは綺麗だ。南国らしい色濃さがあってアカヤシオの可憐さにはやや欠けるところがなくもないが十二分に素晴らしい。
ゆっくり歩いて往復1時間ほどを楽しんだ後、気をよくして近くの諸塚山にも車で向かう。こちらもアケボノツツジの名所ということになっている。20分程の林道走りで登山口駐車場に到着する。
諸塚山は標高1340mほどで山頂まで1時間位の登りとネット情報にある、二上山よりやや高い。
兎に角歩き始める。少し上るとアケボノツツジが見えてくる、こちらは蕾がまだ大分あり5分咲き位だが赤い大きなつぼみの混じった眺めがかえって新鮮で美しい。
二上山で出会った人達にここでも出会う、群馬から来たという人も居る、様々だ、ここ数年では一番いい咲きっぷりだとの声もある、桜もそうだが今年は花は総じていいような気がしている。
アケボノツツジとアカヤシオはどう違うのだろうかと帰って少しネットで調べてみる。九州に分布するのはツクシアケボノツツジと呼ばれ、"ツクシ"のつかないアケボノツツジは四国・近畿に分布、アカヤシオは近畿より東に分布とある。
学名では(「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)によれば)
ツクシアケボノツツジ:Rhododendron pentaphyllum Maxim. var. pentaphyllum
アケボノツツジ:Rhododendron pentaphyllum Maxim. var. shikokianum T.Yamaz.
アカヤシオ:Rhododendron pentaphyllum Maxim. var. nikoense Komatsu
となっており、Rhododendron pentaphyllum Maxim.の変種が3つあるという形だ。
Rhododendronはつつじ属、種小名のpentaphyllumはペンタフラムー五茫星形 の意で一般的
な表現のようだ、学名からはツクシアケボノツツジが親のようにも見えるがどれがどれの変種ということでもなさそうだ。
違いは雄しべの根元に毛があるかどうかといった些細な形態の差のようで遠目にはすぐには判別できないというのが本当らしい。
アケボノツツジという名づけも曙の空の色と結び付けたものと説明しているサイトもあるが、何とはなしに枕草子の「春はあけぼの」のせりふから来ているのではないかという気がする。アケボノツツジもアカヤシオも標高が同じなら桜より僅かに先に咲いて陽春のさきがけのようなところがある。
しかし何だかアカヤシオが懐かしくなる。アケボノツツジという語感がどこかぼやけていてアカヤシオという言葉の響きが放つ清冽さに負けているのかもしれない。奥深い山の花を見たいという気持ちには花そのものを含めた幻想が纏わりついているようだ。
九州の山には今このほかにもツクシシャクナゲがたくさん咲いており思いの外彩りに富む山々という気がしている。住めば都ではないがいいところを見ていけばどこも面白い世の中なのだろう。暫くは記憶のぼやけていた九州を理解するのに忙しい日々が続いていく。
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)