ポッペーアの戴冠を観る
つい最近ポッペーアの戴冠というモンテベルディのオペラを観にいった。オペラは福岡でも年に数回本格的公演が催されるが大掛かりなこともあって大体がかなり高いし、今月末のアイーダでは東京公演の注目の主役が福岡へは来なかったりしてどうにも足を運ぶ気になれないでいた。
このポッペーアの戴冠はコンサート形式のバロックオペラでこじんまりとしているが本格的というのが気に入った。演奏はラ・ヴェネクシアーナというイタリアで古典を専門とするチームで日本公演は福岡から始まるというのも何だかいい感じがして出かけた。コンサート形式だから舞台装置は全く無いものの衣装くらいはそれらしくするのかと思っていたが、実際に始まってみると歌い手には普段着のような服の人もいてテレビやDVDで観るオペラとはかなり雰囲気が違っている。勿論日本語訳のせりふは舞台両脇の大きな電光掲示板に表示されていて歌を聴きながらストーリーを追いかけていくことに支障は無い。
作者のモンテヴェルディは近代オペラを始めた人といわれ、18曲のオペラを書いたらしいが現在残っているものは3曲でそのうち最後に書いたこのポッペーアの戴冠が最高傑作とされる。
暴君ネローネ(つまり皇帝ネロ)が部下の将軍オットーネの美人妻ポッペーアと不倫し皇后オクタウィアを追放その後釜とする話だ、史実に基づいているらしい。
20分の休憩を挟んで正味2時間20分の間ひたすら演奏と歌が続く。ネローネ役は女性のメゾソプラノだ。他の演奏をyoutubeで見てもネローネは男性ではカウンターテナーが演じるようだからとにかく高い歌声を要求していて女性でもパートとしておかしくないのだが芝居としてはなんだか変だ。その代わりといっては何だが乳母役は男性のテノールが当てられる。男と女の役が逆でも劇の進行でその様なものだと思いこめば次第に慣れてはまりこんでくる。ポッペアとネローネの2重唱では女性2重唱となってきらきらと美しく響き、バロックオペラはこうでなくちゃと思わせるから不思議だ。モンテヴェルディはシェイクスピアの時代と重なる。その時代であればこんなこともおかしくはないのかもしれない。歌舞伎の女形とはまた違う世界だ。チェンバロの乾いた音に合うのは高い女性パートのようにも感じられる。
ともかくプッチーニやヴェルディのオペラとは全く異なるが歌を歌として聴きやすく話の展開も面白くて次第に引き込まれていく。台詞回しのレチタティーヴォのようなところは殆どなくて歌の連続に聞こえ、その波打つような寄せては返す歌のリズムが心地よい。
いい気分でコンサートは終わったが次の日13日は兵庫県西宮市の公演の予定となっている、台風19号の影響はどうなるのだろうか、うまく移動できるだろうか、中止ということもありうるのだろうか、ちょっとスリリングだ。ひらりひらりとかわしていくのかもしれない、ツアーそのもののそこにあるドラマも含めて、内容といい演じ方といい全体がすこぶる今日的な気がしてくる。
台風が過ぎて秋が深まっている、時々こんなコンサートに出会うのもいい。
| 固定リンク
コメント