「神聖ローマ帝国 皇帝ルドルフ2世の驚異の世界展」を見る
寒くなった。寒い時には屋内を巡るに限る。
福岡市博物館の出し物が気になっていたところへ、タダ券が手に入って勇んで出かけた。
神聖ローマ帝国 皇帝ルドルフ2世の驚異の世界展 という展示だ。12月24日まで福岡で開催し来年1月9日からは渋谷Bunkamuraで、そのあとは3月21日から滋賀の佐川美術館へと巡回するという。
西洋近代美術館のアルチンボルドの展示会の様子がテレビで何回か放映されていててっきりこれが福岡に回ってきたのかと思っていたが、まったく違っていた。
神聖ローマ帝国の皇帝ルドルフ2世が収集した森羅万象の事物の展示で、これが思った以上に面白い。
ドライにいうとハプスブルグ家による博物学的収集の一覧ということになる。
欧州の博物学というと百科事典派というのがあった気がして調べてみると、百科全書派というのが正しくて、18世紀フランスでフランス革命直前に編纂された百科全書の作成に関わったディドロ、ダランベール、ヴォルテール、ルソー等が該当する。しかしこのルドルフ2世とは時代が200年位違うようだ。
ルドルフ2世は日本でいえば戦国時代、高山右近と同い年というから16世紀末から17世紀初めの時代となる。大航海時代で世界中には思いもよらないものがあると認識されるに至った時代だ。
錬金術師や画家や科学者を多く抱えケプラーの法則(惑星軌道の面積速度一定の法則)で有名なケプラーも庇護し この時代のの文化を支えた存在だったようだ。動物園や植物園まで持っていたという。首都をウイーンからプラハへ移したことでも知られ現在のプラハに流れる文化的香りを創り出したのがこの皇帝とされるようだ。
見ていくと天体観測用のアストロラーペや精巧な細工の時計など今見ても極めて興味深いものが次々に現れる。
アルチンボルドの絵も面白い。
展示されているアルチンボルドによる絵は皇帝ルドルフ2世の肖像の1枚のみだ。しかし、これに似た手法で人物を描いた他の画家の絵が何点か展示されていたがアルチンボルドの方が数倍優れているのは一目瞭然だ、一枚で十分に迫力がある。
これを立体にした現代作家フィリップ・ハースの作品も並べられている、こんな作家がいるというのも面白い。
アルチンボルドの、詳細な植物の描写そのものをデフォルメせずに組み合わせだけで肖像を実現するというアイディアが、結局は全ての物はほんの100くらいの元素の組み合わせからできているだけなのだ、という今では誰もが知る事実につながる道を示しているようでもある。事物の真実を突いているところに多くの人が惹かれ続けているのかもしれない。
ブリューゲル(父)の描いた花の静物画もあってこのように花瓶に入れた花を描くやり方はこの絵が始まりだったと聞くとこんなものにも歴史があるということ自体に気が付かされる。ルドルフの植物園で咲かせていたと思われる様々な種類の花を図鑑のように丹念に描き蝶や虫がついているところまで細かく描きこまれているのにも驚く。
現代にも流れる博物学的な知識の源流がこのあたりにあったのかとも認識させられる。確かに博物館で開くのに誠にふさわしい展示だ。
幻の鳥ともいわれるドードーもルドルフ2世の動物園で飼われていたらしくその絵がサーフェリーの絵などに僅かに残されている。
全ての珍しいものを残そうとするルドルフの努力が当時評価されていたか知る由もないが今となってはタイムマシンのようにその時代の痕跡に接することができる極めて貴重な仕事をしたと思えてくる。ルドルフ2世は政治的には愚鈍な王とされていたようで最後は弟によって力ずくで退位させられている、しかし後世までその名が残ったのはルドルフ2世の方だった。そんなものなのだろう。
なかなかいい展示企画だった。ふと東北震災の花は咲くの歌を思い出していた、今は何を残せているのだろうか。
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