モスクワの近くで旅客機が墜落
モスクワの近くで旅客機が墜落して乗員乗客が全員死亡した。一年以上民間旅客機の墜落事故はなかったがついに破られてしまった、こんな時代によくもそんなことが続いたということかもしれない。
現時点で明らかにされている事故の状況は以下の通り:
2018年2月11日現地時間14時21分(世界標準時では11時21分)、モスクワの南35㎞ほどのところにあるドモジェドヴォ国際空港をオルスクに向け離陸したサラトフ航空のアントノフAn-148-100Bが離陸後6分の14時27分にモスクワ近郊のラメンスキー地区ステパノフスコエ付近に墜落大破した。搭乗していた乗員6名乗客65名合計71名全員が死亡した。満席に近かったようだ。高度6400ft(約1950m)から急降下して地面に激突した模様。
機体のAn-148-100BはウクライナのANTKアントノフ社が2007年に開発した双発のターボファンジェット旅客機で75人乗り、最大離陸重量42トン、航続距離2200nmとおおよそMRJに近いサイズのリージョナルジェット機だ。形の上では高翼に特徴がある。現在38機が飛行しており、内 北朝鮮のAIR KORYOが4機、今回のロシア・サラトフ航空が7機、ロシア・イルクーツクのアンガラ航空が5機、キューバのCubana航空が6機 他はロシア空軍等官需機になっているようで、旧共産圏以外には売れない苦しいビジネスとなっているようだ。今回墜落した機体は2010年製造でロシヤ航空に引き渡され使用されていたが2015年4月からはペテルスブルグで保管状態となり2017年2月からサラトフ航空にリースされ使用が再開されていた。
エンジンのProgress D-436-148はソ連時代の1980年代にウクライナのイーウチェンコ設計局が開発したターボファンエンジンD-436の派生型としてAn-148用に開発されたエンジンで現在はウクライナのモトール・シーチ社が製造している。ソ連の崩壊、その後の旧ソ連グループの航空産業を支えてきたウクライナの姿が浮かび上がってくるような機体だ。
勿論これらの会社はロシア―ウクライナを中軸にする旧ソ連圏の軍需産業の中核だ。ロシアの軍事的プレゼンスを支える軍需産業の視点から眺めればロシアとウクライナの間の戦争はありえない戦争のような気がしてくる。所詮内輪もめの類で部外者はクールに傍観するほかないのではないか、そんな気持ちになる。
サラトフ航空はアエロフロートのサラトフ支社が独立してできた中堅のリージョナル航空会社で本社がヴォルガ川沿いの都市サラトフにある。サラトフは帝政ロシア時代に移住したドイツ人”ヴォルガドイツ人”が多く住む町であったといわれそのせいか産業や文化が発達した。航空機工業も盛んでアントノフ設計局を率いた航空機設計者アントノフの故郷でもある。アントノフの故郷の名を冠した航空会社の運航するアントノフ機が墜落したのも何かの巡り合わせなのだろう。
事故機の飛行については飛行中に地上に送られてくるADS-BのデータがFlightRadar24という民間機の航跡データをリアルタイムにネットに表示する事業者により公表されている。これによれば離陸上昇中から速度は大きく変動し最後は急降下に至っている。
事故機のフライトレコーダは回収され調査が進んでいる模様だが事故調査当局の速報的コメントからは 対気速度を検出するピトーセンサーの除氷装置がパイロットによりオフにされたまま飛行しており着氷のため速度表示が離陸直後からおかしな値となっていた可能性が濃厚という。ADS-Bで送られてきたデータもそもそもの元データがおかしかったのだろう。
パイロットは自動操縦装置がおかしいと判断したのかこれを切りそのあとに急降下に入ったらしい。雲中飛行であり氷結で速度計の指示が低くなっていたためこれを回復すべく意図的に急降下したとも考えられる。
この報道を見てまず思ったのは本当に着氷する気象状態だったかというあたりだ。厳しい着氷が起こるのは0℃近くの生ぬるいくらいの気温が水分が多く含めて危ない、モスクワ付近であれば気温はずっと低かったのではないかと少し調べてみた。
ドモジェドヴォ国際空港のMETAR気象データでは現地時刻14時30分で小雪、気温-5℃、湿数1、2600ft以上は全域雲、でちょっと寒いくらいの湿度の高い状態だ、確かにこれは少々危ない。
上空のデータはドモジェドヴォ国際空港の現地時間15時のゾンデデータがWyoming大のサイトにあってこれを読みだしてみると上空1500m(5000ft)くらいまではあまり気温は下がらず暖かい上空になっている。
この気温ー高度の条件では米航空局(FAA)の防除氷装置の設計を規定するFARpt25にある着氷条件の図からは着氷の恐れがかなり厳しいと判定される。
850hp高度(高度5000ft相当)の相当温位を見てみると黒海から相当温位の比較的高い領域が北へス―っと伸びている。厳冬期にこんな気象は滅多にないのかもしれない。
こんな条件で防除氷スイッチを切った神経が疑われるがパイロットも5000時間の経験のベテランという、普段はもっとドライなきつい寒さでこんな生ぬるい条件の飛行はしていなかったか或いは防除氷装置そのものが不調だったか又はエンジンの出力がヒータ電源を切りたくなるほどに低下していたのか、様々に考えてしまう。
事故があれば色々調べたくなり調べてみると知らなかった世界が開けてくる。世界が思わず広がるところが航空機事故を追いかけて見ることの面白いところでもある。
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