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2018年3月21日 (水)

カズオ・イシグロの「女たちの遠い夏」

カズオ・イシグロがノーベル賞を受賞したと聞いてすぐさま市の図書館の著書数冊に予約を入れていたのがやっと貸し出しの順番が回ってき始めた。まずは「女たちの遠い夏」だ。1982年著者が28歳の時に刊行された作品で事実上のデビュー作といえる。

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欧米各紙の高い評価が得られて作家人生の良いスタートとなったようだ。
日本では1984年暮れに小野寺健(今年1月1日に86歳で亡くなった)の訳により筑摩書房から出版されている。貸し出しを受けたのはこの初版本だ。もう紙が日焼けしてきており30年以上の年月を物理的に感じてしまう。
私小説の形ではある。わたしというのは大きな二人の娘のいる母親で長崎からイギリスへ渡ってきてイギリスで暮らしている、長女が自殺した後の日常の中で長崎にいた頃の様々な出来事を回想しているという舞台立てだ。ほとんどが戦後期の朝鮮戦争が起こっているころの日本の話でイギリス文学というより日本文学のように思えてしまう。登場人物名は漢字表記となっているが勿論原文に漢字はない。訳者の小野寺健ははじめ総てカタカナがきにしようかと思っていたがイシグロから出版社に登場人物の名前表記で避けるべき漢字をわざわざ指定してきたことを知り著者は当然漢字表記されること思っていると解り名前に訳者の思う漢字を当てていったという。悦子であり二郎であり佐知子であり万里子という漢字の人物が訳本でイメージを現したことにもなる。こんなこともあり日本の小説としてどうしても読んでしまう、もとがenglishだとの感じはとんとしてこない。

それにしても彼が経験したはずのない戦争直後の敗戦を越えて生きる日本の日常の有様がリアルに描かれている、それも女性の主人公の目で微妙な心情がそれらしく語られている、非凡な文才としか言いようがない。

世の中にはすごい人がいる、自分は何をしてきたのだろうか、そんなことをつらつら思ってしまう。今更取り戻すことはできない、ともかく過ぎていく世をしっかり見つめたい、それでも十分ではなかろうか、そんな風にも思っている


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