カズオイシグロの「わたしたちが孤児だったころ」を読む
このところカズオイシグロの作品を読むことが多くなった。
この「わたしたちが孤児だったころ」(原題:When We were Orphans)は「充たされざる者」の次に発表された長編で丁度うまく図書館から「充たされざる者」の次に順番が回ってきた。こういう風に読むと違和感があまりないが、「日の名残り」の次に読むと、何だこれは、という印象が出てくるのではとも思う。素直に読むべき小説ではない。
探偵が主人公の私小説という設定自体が奇妙だ、リアリティが希薄だ。歪んだ眼鏡を通して物語を追っていく気分になる。戦前の上海という舞台設定もこの世ではない世界のようにも思ってしまう。上海で現れる日本軍人はぎこちないし再会した幼い頃の親友だった日本人の像も揺らいでいるように思える。
実体験のない世界を奇妙にひずませることによってそれを見ている読者を巧みに構成されたイシグロの世界にリアルに引き込んでいるような気がする。面白いつくりの小説だ、スピード感がある。異様な展開も時空を超えて予想されたような結末となって普通に話は終わる。変な読後感は残らない。「充たされざる者」に比べればはるかに読みやすい。
それにしても上海の租界というところはは随分と異様な世界だったようだ。今も残る建物群が1か月ほど前訪れた北京とは相当に違う雰囲気を現在でも与えているようだ。また格安プランででも行ってみようか、それもいいか、との気がしてきている。
心象風景を現実に見る、ゆらぎながらこれを行う、こんな遊びが面白いように思えている。カズオイシグロに影響されはじめたのかもしれない。
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