オペラカルメンを見る
ブルガリア国立歌劇場公演のカルメンをアクロス福岡で見た。
ブルガリアと聞くとヨーグルトが浮かんできてヨーロッパの田舎とのイメージがどこかにある。でも首都ソフィアの名前を聞くとあのソフィアの秋の舞台かと少し洒落た印象もある。要するに何もわかっていない。ブルガリアの場所はというと ギリシア国境の北、ハンガリーの南、黒海にその東端が面しているという位置にある、所謂東欧という言葉くらいしか頭に浮かんでこない。
今回の公演の出演者についてもまともな知識は全くなくて更に指揮者が日本人というところには驚きすら覚える。一体どういうオペラの劇場なのか。Sofia opera という表記を現地のホームページでは用いておりこの呼び方が通称のようではあるが National Opera and Ballet という呼称が正式のようでありオペラとバレーの出し物を活動の中心にしているような組織との印象を受ける。
ともかく観るしかない。
幕が上がるとMET(メトロポリタンオペラ)の映像で見たりするカルメンの冒頭のシーンとは全くといって違っている。確か工場の女性工員と軍人との掛け合いがあったはずだが、それは顔のない合唱隊の歌に置き換えられている。仮面劇のようだ。ホセとカルメン、ミカエラ(ホセの許嫁)の3人だけが中央の丸い赤い舞台に上がれる、そしてそこで物語は進んでいく。能舞台を意識したと演出者(カルターロフ(劇場総裁!))は語っている。よく知られた旋律が次々に出てくるが、間はレスタチーボではなくセリフでつながれていく、普通のカルメンとは全く違う組み立てだがごちゃごちゃしたところがなくわかりやすい。切れ味がいい。福岡の地元の子供たちも初めの部分で出演するが違和感はない、合同のリハーサルは全くといっていいほどなかったはずだがよくぞ練習したと思える。
ヨーロッパの田舎の歌劇場公演とは全く思えないモダーンな舞台だ。歌唱力はさすがにプロフェッショナルで、オーケストラのメリハリもいい。ヨーロッパの田舎という思い込みは全くといっていいほどに的外れだった。
カルメンはゲルガーナ・ルセコーヴァ、注目のナディア・クラスティヴァではないが歌唱力は素晴らしいものがあった、十分だった。
何といっても演出が素晴らしい、それに尽きる、それを支える技量確かなオペラが見れたというあたりが好印象を与えるように思える。
こういう演出の時代に入ってきたようだ。衛星放送で観るMETの出し物にも古典が現代の舞台設定だったり大幅に従来のものとは違う演出がしばしば見受けられてそういう時代になったのを感じさせていた、それが眼前に展開するとここまで来たかと改めて感じる。
一つの時代の感性が示されたオペラだった。
見たかいがあった。
カルメン役のルセコーヴァは樽のようでとてもすらりとしたカルメンの印象はないがそれを補うべく仕組まれたのかバレリーナによるカルメンとして踊る場面の挿入だった。ここにも斬新さがある。体型の引き締まったオペラ歌手などそういるものではない、こんな分業も面白い。
この演出は日本向けに準備されたものだったが初めてブルガリアで披露した時も好評だったという。日本の公演という形がアートの世界にそれなりの刺激を与えるものならばうれしいことだ。こうやって響きあいながら世界は進化していけるのだろう、世界の平和も保たれうるのだろう。
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