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2018年10月27日 (土)

カズオイシグロの「私を離さないで」

またまた図書館から予約の本の貸し出し順が回ってきたとの連絡が入る。カズオイ

Watashiwo

シグロの本だ。今回は「私を離さないで」だ。すらすら読めて2日で読み切って返却する。読後感はあまりよくない、今まで読んだイシグロの作品では最も心に残らない本だった。

どうにもついていけないところを感じる。イシグロの構築した世界--臓器提供のためだけに創り出されたクローン人間群の一生をその内側から語るという設定に どうにも共感を覚える接点が見いだせない、もどかしい。
このような形を借りて現代に生きる読者に共感を与え言いたいことがあるというのではなく 臓器提供という運命を定められ育っていきその役目を果たして命を捧げていくクローン人間の世界そのものを描くことに全てを注ぎ込んでいるように見えて、ついていけなさを感じてしまう。
イシグロの作品の中では最も共感を感じにくい作品になっているように思う。2005年に発表された本書は 構想を得て書き進められた時点ではクローン羊ドリーが発表されて日も浅く、イシグロがクローン技術の急速な進展に触発されて書いたものと思ってしまう、多分そうなのだろう。現在ではヒトへのクローン技術の適用は国際的に禁止との合意形成がなされており、見通せる未来にはこの書にあるようなクローン人間が次々に作られるという事態はとても想定できない。そんな未来を導いてはならないという思いがこの書を書かせたともいえるのだろう。
しかし、考えてみればヒトクローン禁止の合意形成にこの書が何らかの貢献をしたのかもしれない、それが実を結んだように感じられるがゆえに今となってはこの書はリアリティーを感じさせないとなった、それはむしろ著者が望む方向だったということかもしれない。小説は難しい。文学的にはどうあれ文学が社会に果たせる役割そんなことをイシグロは思っていたのかもしれない。

色々考えてしまう。そこがイシグロらしくて面白いところなのだろうか。不思議な本だ、今はそんな感想を持ってしまっている。
次はイシグロの予約本も最後になってしまう。イシグロという人に対する興味にはつきないものを感じている。

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