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2019年1月28日 (月)

南極の氷から34万年間の気候変化を知る話

地球温暖化のせいだろうか冬がどうにも暖かい。毎日のように高層の大気の状態も

 

20190120fukuoka1

 

見ているが地面付近が寒い日でも5000m位上空は標準大気とさほど変わらない日が多い(例えば福岡の高層データ)。つまり上層は地球の年間を通じての標準となる春の気温と同じくらいということになる。シベリア奥地で生成された低層の冷たい大気が大陸から押し寄せて低層の寒さを形作っているが 地上気温が寒い日があっても大気の大部分を占める上層大気は暖かいということのようだ。世界中似たような状況は起こっていて例えば米国では冬の寒さで知られているシカゴの気温分布(近傍のリンカーン観測点データ)を見ても下層の大気は寒くても上空大気は標準大気とそうは違わない。地球が温暖

 

20190120lincoln1

 

化していることは受け入れざるを得ない、トランプでもと言いたくなる。

そんな気持ちを持って、先週福岡市の科学館で開かれた気象学会の気象教室で南極で観測された地球規模の気候変動の話を聞いた。結論は、やっぱり温暖化だ、但し南極そのものの気象には温暖化のデータは未だ出てきていないようではある。南極から感じられる温暖化ということになる。


 

Nankyoku

 

無人航空機を南極で飛ばしてエアロゾルを計測する話と南極の台地上の基地であるドームふじでの氷のボーリングから太古の環境を知る話の2本立てだ。
無人機での計測の結果では南極としては気温の上昇やエアロゾル(汚染)の増加といった現象はこの20年位の観測では認められないがCO2の上昇だけは確実に認められているという。
一方南極の氷のボーリングの話は、過去34万年間の気候の変化を過去の氷から知る話で、以前にもその結果について聞いた覚えがあった。その時は例えば気温の上昇が僅かにCO2の上昇より先行しているとか氷河期のサイクルからは寒冷化に向かうことが考えられるとかCO2による温暖化議論に疑念を抱くトーンもあったが今回は見方がやや違う。

 

今回の話でも南極の氷の歴史から34万年間の気温の変化とCO2の変化が連動している様が観測されているところは同じだ。一方両極の氷結面積の変動や汚染の状況を調べた結果の見方というのがそうかと思わせる。

 

南極の氷からは近年の大気汚染の影響ははっきりとは見いだせない、しかし北極の氷からは汚染の進行が如実に出ている、また(この汚染の影響のためか)

 

 

Nankyokudata5a2

 

南極の夏の氷の面積は計測のある範囲ではほとんど変化していないがこれに対し北極の夏の氷は減少を続けていると計測されている。
太陽による地球の温まり方は夏の北極周辺の氷の減少から大きな影響を受けるという、言われてみればそうだ。
夏に氷が少なければ太陽からは氷で反射されることなく直接熱エネルギーが入ってくる。CO2による温室効果といわずとも地球自体が温まってきていることは明らかだ。これは解りやすい。
一方、氷河期のサイクルは歴史的には明白でそろそろ現在の間氷期は終わりをつげ寒冷化のサイクルに入りそうな時期だが、近年の急激なCO2増加は34万年の地球の歴史ではこれまでなかったすさまじさで、予想される温暖化は氷河期サイクルの寒冷化のオーダーをはるかに上回っている、どうみてもこのままでは急速に温暖化が進むことは避けられない、というのが今の感触らしい(上図)。

 

確かにそのようだ。
所で氷のボーリングデータから過去の気象データを再現するところで氷の年代同定方法の具体的手法がどうにも分からなかったので気になって講演後発表者本人に疑問をそのままぶつけてみた。結果、よく解った、そんなやり方だったのかと目からうろこが落ちたような気持ちに襲われた。
具体的にはこうだ。(図はNatureに発表された論文(*1)の図を参照している)。日照の

 

Nenaidata1

 

数十万年にわたる変動は地球軌道の歳差運動も細かく入れれば正確に計算で算出することができる。この波動パターンと氷の中に封じ込められた空気の泡のN2O2の比が示すパターンとが良く対応していることを発見、2つのパターンが合うように年代をスライドすれば計算の日照変動で使った年スケールがそのまま氷の年代ということになる、というものだ。詳細な技法は講演で示されたNATURE論文にある、というので戻って調べると論文は公開されていてダウンロードできる。読んでみると確かにN2O2の比のパターンと日照パターンは同じ形をしている。
ちなみに氷のボーリングから過去の気象推移を知るという手法はグリーンランドの氷のボーリングで用いられ始めた、その時の年代決定方法はそれを描いた本(*2)を読んでもよく理解できない記憶があったのでそれも話してみたら、あちらは酸素同位体割合の変動が気温と連動することを利用して年輪のように1年ずつ読んでいった、どうしてもずれが出るが時々起こる火山爆発の痕跡等でずれを修正していった、グリーンランドの場合は1万年位のスケールだからこれができた、数十万年のスケールでは使えなかった、と教えてもらえた。ともかくここ十年位引っかかっていた疑問が氷解した思いがした。

 

 

 

 

 

温暖化が今後どうなるか、本当に過去のCO2と気温の連動がそのままあてはまるなら近年の急激なCO2増加ではとんでもない高温の時代が来るかもしれない、そこまでいうのは確証がないので控えめに見てもいま予測されている100年で3度位の温暖化はどうみてもある、というのが極地の気候を観察してきた気持ちのように思えた。何となく伝わってきた。

 

地球温暖化の話は色々聞いてみないと今どのように考えるべきなのか考えを決めてしまうことが危険なようにも思っている。単純ではない。でも逃げられない。

 

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*1 Kenji Kawamura,Yoshiyuki Fujii  at el.,"Northern Hemisphere forcing of climatic cycles in Antarctica over the past 360,000years" , Nature volume 448, pages 912-916 (23 August 2007)
*2 Richard B. Alley,"The Two-Mile Time Machine",Princeton Univ Press

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