トランプの「炎と怒り」を読む
図書館からトランプ政権の内幕暴露本「炎と怒り」の貸し出し順番が回ってきたとの連絡がやっとあって、このところこの「炎と怒り」(マイケル・ウルフ著)を読んでいた。2018年1月5日に原本が米国で販売開始となってその僅か1か月半後の2018年2月25日に和訳本が早川から 出版されている。485ページの字だけの本で読むのにもそれなりの時間がかかるが恐るべき早業の出版だ。翻訳者は12名の名前が巻末に示してあるだけで訳者のおぼえがきのようなものは一切ない。速さが勝負の訳本のようだが乱雑な訳でもなくこなれた日本語として自然に読める。とにかく読み終えた。
当選してからバノンが補佐官を辞めるあたりまでのトランプ政権の内部の状況を細かく描いていて今読んでも十分面白い。
クシュナー=イヴァンカとバノンの対立を軸にとらえているようではあるが登場人物が多くぐちゃぐちゃな政権運営の雰囲気が良く出ている感じがする。
読んでいくとトランプ本人は意外にもまともな判断をしているように見えてくるから面白い。それくらい取り巻いているスタッフの愚かしさばかりが目に付いてくる。そこらあたりにトランプの支持率の高さがあるようだ、どんなにマスコミがたたこうと、官僚組織人から馬鹿にされようと、本質的に米国人の多くが引っかかっていて表に出せないことをトランプ本人が確実につかんでいるように思える。例えばメキシコからの密入国者が現実に米国人の職を奪っている、これはおかしいこれを何とかしたい、米国で稼働すべき工場の多くが国外へ例えばメキシコへ移転している、これも何とかしたい、等々。トランプが当選するとはトランプチームではバノン以外誰も思っていなかったにせよトランプのような人はいずれ出るべき人だったように思えてくる。それくらい政治がいびつになっていてその状況を変える人はこれ位破天荒な人が必要だったのだろう、そう思えてくる。
分厚い本で読んでいくのが疲れる、読んでいくのが楽しい本でもない、トランプ政治の歴史的観点での意義付けみたいな記述・考察は一切なくてただ筆者の前で展開するホワイトハウス内部の暗闘をひたすら記述している、だからどうなのか、と読んでいて問いたくなる。
記述そのものに創作があるといっている人もいるようで何が真実かは解らないが、テレビを見ているように流れていくトランプ政権内部物語を眺めているだけという筆者の或いは読者の視点が、楽でいい、思想の押しつけが無くていい。
なかなかいい本だった。
最近読み終えたばかりのアラビアのロレンスの「7つの知恵柱」とどうしても比べて見たくなる。こちらの方は本人が描いた第1次大戦におけるアラブ軍部隊のいわば内幕暴露本で同じように細かい内部の出来事を積み上げるように書いている、5冊に及ぶ大著で読み通すには相当の根気がいるが読み終えるとこのトランプ本とどこか似ている。実際の出来事をひたすら追っかけるように書いていくとこうなるのだろうか。
次の暴露本「恐怖の男 トランプ政権の真実」(ボブウッドワード著)の順番はまだなかなか回ってこないがこれも楽しみだ。
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