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2021年9月30日 (木)

今年の芥川賞を読んでみる

芥川賞の発表が7月半ばにあり作品が掲載された文芸春秋を図書館に予約していたが早くも順番が回ってきて読み始めた。石沢麻依による「貝に続く場所にて」から読みかかる。
石沢麻依はドイツ在住の研究者で小説はこれが初めてという。読み始めると情景描写が技巧を見せつけるようでひっかかって感じよくない、気負って書いているのがありありだ。仙台で体験した東日本大震災とその後のドイツ留学の体験を随分使って書いている、次は暫く書けないのではなかろうか。作品のあらHon2 すじを追うとこうだ。

東日本大震災で海に流れた不明者で「私」の遠い友人である野宮が、未だ遺体が上がらないままドイツ・ゲッチンゲンにどう見てもリアルな人間の形をした亡霊として現れ、そこで留学生活を送っている「私」が古い友人として関わっていく。野宮はメールも打てるし電話も掛けられる、普通の人間として生活していくし「私」の暮らしてきた現地の知り合い達の中に自然と入ってくる。取り巻く知り合いそれぞれの記憶にあった大事なものが形をもったリアルなものとして森の中でルームメイトのトリフ犬によって掘り出されるようになる、そればかりかGottingen(月沈原)の街そのものがところどころで過去の町の姿を時折表すようになる、更には現れた野宮という亡霊は過去から現れた寺田寅彦と思われる寺田と名乗る人と友として付き合うようになる、確かに寺田寅彦は留学中月沈原で過ごしてもいる。過去の思い出や人物像や景観が手で触れるリアルな存在として現代に交わってくるという魅力的な設定そのものが小説の核であり殆ど全てのようにも見える。
人それぞれの心の中にある限り過去も現実と変わりはなくこの世界に存在している、ということなのだろう。新しい形の小説であることは明らかだ。情景描写のもったいぶり感などどうでもいいくらいこれは芥川賞だ。

芥川賞と言えば最近別の思い出すことがある。インスタに身の周りのその日の自然の写真を毎日投稿してHon1 いるが8月の下旬に投稿した庭のムラサキシキブの実の写真にテキサスからのあれという書き込みがあった。テキサスにも非常によく似た植物があるというのだ。ムラサキシキブという名から日本の植物とばかり思っていたが検索すると アメリカ種のAmerican beautyberry というのが確かにある。更にmurasakisikibuの検索の下の方にmieko kawakamiという名ががでてくる、ムラサキシキブ賞を受賞した作家ということだが、その説明から川上 未映子の作品が広く翻訳出版され世界的作家になっていることを知る、知らなかった、2008年1月に芥川賞を受賞した作家だ。適当に読んでみるかと受賞作を外して図書館に「すべて真夜中の恋人たち」を予約する。
3日ほどして本が到着、「すべて真夜中の恋人たち」を借り出して読み始める、校正の人の話でちょっと面白い、上手な作家だ。love storyではあるが、乾いたような若さを感じる緩い展開だ。もちろん主人公ももう若いというほどの年齢ではないが爽やかさがある。少し長いが寝付かれぬ夜などに読んで数日で読了した、読後感がいい、良く書いている。
Newsweekの2021年版世界が尊敬する日本人100に川上 未映子 が入っていると知る。作家では彼女だけのようだ。世界が支持している日本の作家の先頭ということになる。

石沢麻依は川上未映子のようになれるだろうか。

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