カズオイシグロの「クララとお日様」を読む
ノーベル賞以来初の長編ということもあってしばらく前に図書館に予約していたのがやっと順番が回ってきて昨日読み終えた。どこかで見たような終わり方だという気がして考えていたらターミネーターだった。
ロボット一人称の小説だからターミネーターよりもずっと進んでいる。確かにロボットと人間の関係がこんな風に親密なものとなる時代がくるのかもしれない。この小説の設定で奇妙なのはお日様だ。主人公ロボットクララの願いを叶えて特別な光線をジョジーに送り込んでくれる。心のあるお日様が世界を照らしている。こんなことはいくら時代が進んでも起こりそうには思えない。だからSFではない文学になっているような気がする。現在とつながっているようで実はつながっていない架空世界を描いている。いわばゲームの中に作られるような世界のように思えてくる。前作の「忘れられた巨人」がロールプレイングゲームのような組み立てだったのが気に入ってこんな形にしたのかもしれない。
2021年3月2日にロンドンの出版社Faber and Faberから初出版されたその翌週の3月10日には早川書房から433ページに及ぶ和訳本が出版されている。驚くべき速さだ。そんな時代になってしまっている現在も感じてしまう。
読み始めてしばらくはその世界に入り込む感じがしなくてなかなか読み進めなかったが約束事も何となくわかった中盤以降の展開が面白く、後半は一気に読めてしまった。面白いと言うより興味深い小説という表現がふさわしいような気がする。カズオイシグロという名前で読んでいるところが多分にあるようでもある。とにかく期限内に読み終えた、明日には図書館に返さねば。
| 固定リンク
コメント