村上春樹の「街とその不確かな壁」 を読む ノーベル賞は無理かな
今年2023年の4月に久し振りの村上春樹の長編が出版されてすぐに図書館に予約を入れておいたのだが、長い待ち行列ができていてつい1週間前にやっと順番が回ってきて借り出した。6か月かかったということになる。珍しくも著者あとがきのある小説だ。めったにみない。ちょっと頭の方を見た後あとがきを読んでみる。何と「羊をめぐる 冒険」」より前に書き上げた同名の中編小説(文学界1980年9月号掲載)の大幅焼き直しとある。読み始めた感じが昔懐かしい春樹スタイルだという印象を受けたのはそういうことかと合点する。架空の世界をすかすか感のある書き方で書いている。乾いている。先ほど読み終えたが、パラレルワールドものという言い方で分類したくなる小説だ、プラトンの洞窟の比喩というより、SFの世界では時々現れる形式のような気がしてしまう。今回の本は655頁の長編だが普通に読んで6日で読み終えた、すらすら読める。読了直後の印象は、読んでいて引き込まれる小説だがこれはノーベル賞には無理かな、というものだった。ノーベル文学賞はその文学がオーバーに言えば世界史的な意義があるものかという基準で授与されているような気がしているが村上春樹はもはやその段階は通り過ぎたような感じがしてしまう、特別感がしない。あとがきに引用されているホルヘ・ルイス・ボルヘスの言葉ー作家は限られた数のモチーフを手を変え品を変え様々な形に書き換えていくだけだーというのが一番生々しい記述のように感じてしまう。
色々感じるが読みやすくて面白い小説であることには違いない。秋の夜長はやはり読書に限るのだろう。
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