ベンジャミン・カーター・ヘットの「ドイツ人はなぜヒトラーを選んだのか」を読む
近現代の世界の歴史で前から引っかかっていたのがナチズムは暴力革命ではなく当時最も民主的と思われるワイマール共和国で選挙で第一党となって政権を担当することになった、すなわち当時のドイツ国民のマジョリティーがヒトラーを選択したというところにあった。そんなこともあり、誰かの書評でこの「ドイツ人はなぜヒトラーを選んだのか」という本が紹介されていたのを見てこの本を図書館から借りだして読み始めたというのが直接のきっかけではある。著者はベンジャミン・カータ ー・ヘットというカナダ育ちのアメリカ人で、弁護士からスタートしたが4年でやめ大学の歴史学の博士課程を学びなおし歴史学者となったという経歴を持つ、と本人の名を冠したホームページに書かれている。ドイツの近現代史を法律家の視点で眺めながら研究して2004年から著書を次々に世 に出すようになって現在はニューヨーク市立のハンターカレッジで歴史学の教授を務めているという。この本は2018年に出版されたがここまでもナチス政権成立直後の国会議事堂燃上事件の詳細な調査を行い何があったのか再構築し原因を可能な限り明らかにしようとした本も出しているようで、この時期のドイツの政治社会情勢について広範な資料を調査研究していていることがうかがえる。
読んでいくと、ナチスの登場のキーワードはワイマール共和国の体制が国民に概して不人気であった、特に当時ソ連から逃れてきた大量のユダヤ人移民やこれとは別に共産主義勢力及び米英がとるグローバル資本主義が吹き荒れており、これを是認し象徴するのがワイマール共和国の体制だったと思われていたようでそこにナショナリストが大きな勢力となりうる原因があったということのように思えてくる。1932年7月の選挙でナチ党は37.3%の得票を得、第2党の社会民主党21.5%を大きく引き離す第1党となった。大統領ヒンデンブルグはヒトラーを首相に任命したくなく大統領アドバイザーのシュライヒャーを首相としてナチ党の一部も引き入れた連合政権としようとしたがうまくいかず、1933年1月やむなくヒトラーを首相に指名した。より直接的には1933年1月15日のリッペ州の州選挙でもナチは43%の高得票率を得たという結果がとどめとなったということらしい。確かに民主的な選挙結果によってヒトラー/ナチというドイツ国民による選択を示されたことになる。英米主導のグロバリゼーションと殺到する難民という図式はまさに現代の様相であり、これに火をつける政治家が現れればヒトラー/ナチズムの形を変えた再来は当然に考えられる気がする、確かに米国や欧州各地で極右勢力/政党が伸びているようでもある。しかし現代の有利なポジションはこのようなことが起こったということを歴史に学んでいることなのだろう。
なかなかの本だった。世界はどうなっていくだろう、理解し眺め続けることもそれはそれで面白い気もしている。
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