渡良瀬遊水地にて
台風15号が駆け抜けてあちこち水浸しになった。宇都宮は台風の目が通りそうだったが僅かに西にずれて目
の中のつかの間の穏やかさは味わえないままに去って行った。これまで自分の頭上に目が通ったことは数回くらいはあったような気がしているがはっきり思い出せない、内陸にくるまで眼がしっかりしている台風もそうは無いような気もしている。何しろ台風の渦巻きのエネルギーは暖かい海から供給され続けなければたちまち弱まる。
台風一過一日置いてもう大丈夫かと渡良瀬遊水地に出かけた。殆ど思い付きだ、何が目当てというわけでもない、動けば何かには行き当たるだろう、動いていたほうが面白い、それくらいの思いだ。一応ネットで遊水地立ち入り禁止のお知らせはないことを確認して出かけたが、湿地資料館に立ち寄ると、声の大きな館の人が水浸しでとても入れない、朝からヘリコプターで繰り返し流していたよという。ちょっと圧倒されてしまうがとにかく様子を見ようと北エントランスまで行ってみる、確かにクルマははいれないようになっている。土手に上がると、水は思ったほどでもない、少なくも道は見えているし人も少しばかり見える、入っても大丈夫だろうかと車止めのしてある道を少し下って恐る恐る写真を撮っていると、こんなところではよく撮れないでしょう、中を歩いてもしかられませんよ、と後ろから声がかかる、振り向けばのんびりとイヌを連れた男性が散歩の風情だ。
従うように 降りていく、道端にまで水は来ているが大したことはない。これは滅多に見ない景色だ、とにかく見る、見ることだけだ。鳥といってもホオジロがたまに飛び出してくる位で静かなものだ。他にはオオヨシキリが1声2声、コジュケイが突然現れる、ツバメが少しずつとびかうようになる、カワラヒワが数羽で横切る、トビが2羽ソアリングを始める、それくらいであとはカラスの天下だ。シギが現れるわけでもない。
葦は随分荒れた感じで雑草も多い、今年は地震のせいもあって3月の野焼きをやらずじまいになってしまったという、そのせいだろう、自然の力がひたひたと広がっているようだ。歩いていると時々人に会う、横浜から来たという若い男性に 草原に入れる所はありますか、と聞かれて答えにつまってしまう、解らないことを聞く人もあるものだ、草原とは目の前に広がるこの風景のことだろうか、水浸しは見えている、いつもなら適当に入るところはあるのですがこの有様ではといい加減に応えると解ったように別の方向へ歩いていく。いろんな人がいる。大分歩いたつもりでも広い遊水地ではいくらもいけない、いい加減なところで引き返す。なんとなく生きているとはこんなことだな、と思い始める、茫洋としたところを訳も無く歩いていく、時々不思議な人に出会う、また歩く。悪くない。
台風は台風らしい暴れ方をして秋を残すように去っていった。雲が大分高くなったようだ、山には雪が降り冬がすこしずつ近づき季節はゆるやかに転がる。
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